僕は都内の中堅商社で働く三十代半ばのサラリーマンだが、最近鏡を見るたびにため息が出る。生え際が後退し頭頂部の地肌が透けて見えるようになってきたからだ。そしてそれと時を同じくして会社の健康診断で「高血圧気味」との判定を受けた。医師からは「ストレスを減らして適度な運動を」という定型文のようなアドバイスをもらったが、ノルマに追われ上司と部下の板挟みになっている現状でストレスを減らすなど不可能に近い。しかし薄毛について調べていくうちに、このストレスによる高血圧と薄毛が見事なまでにリンクしていることに気づき愕然とした。ストレスを感じると人間の体は戦闘モードになり自律神経の交感神経が活発になる。するとアドレナリンが放出され血管がギュッと収縮し血圧が上がる。これは敵から逃げたり戦ったりするために筋肉や脳に血液を集めるための太古からの防衛本能だが、その代償として生命維持に直接関係のない皮膚や消化器、そして髪の毛への血流は後回しにされ遮断されてしまうのだ。つまり僕がプレゼン前に緊張して心臓がバクバクしているときや、クレーム処理で冷や汗をかいているとき、僕の頭皮は虚血状態になり毛根は酸欠で喘いでいるということになる。さらに慢性的なストレスは活性酸素を大量に発生させ、これが毛母細胞を直接攻撃して老化させるというオマケまでついてくる。高血圧と薄毛、まさにストレス社会が生んだ現代病の双子のような存在だ。仕事が終わって深夜に帰宅し、ストレス解消と称して塩辛いおつまみで酒を飲みタバコを吸う。これらすべてがさらに血圧を上げ髪をむしり取っていく行為だと知ったときの絶望感と言ったらなかった。しかし嘆いてばかりもいられない。この二重苦から抜け出すためには、まず自分が常に緊張状態にあることを自覚し、意識的にリラックスする時間を作るしかないと悟った。深呼吸をすること、湯船にゆっくり浸かること、そして休日は仕事を忘れること。これらは血圧を下げるための行動であり、同時に頭皮への血流を回復させる育毛活動でもあるのだ。僕は今、デスクの横に小さな観葉植物を置き、イラッとしたらそれを見て一呼吸置くようにしている。自分の血管と髪を守れるのは結局のところ自分しかいないのだから。戦う男の勲章がハゲと高血圧ではあまりにも寂しすぎる。心と血管を緩めることが、フサフサな未来への唯一の活路だと信じて、今日も僕は深呼吸をする。
ストレス社会で戦う男の血圧と頭皮の二重苦