飽食の時代と言われる現代日本において栄養不足が薄毛の主要な原因になっているというのは信じがたい話かもしれませんが、カロリーは足りていても髪に必要な栄養素が決定的に不足している「質的栄養失調」に陥っている人があまりにも多いのが現実です。髪の毛はケラチンというタンパク質で構成されていますが、このケラチンを合成するためには良質なタンパク質だけでなく、亜鉛やビタミン群といった補酵素の助けが不可欠です。しかし、現代人の食生活はコンビニ弁当やファストフード、加工食品への依存度が高く、糖質と脂質ばかりが過剰で、ビタミンやミネラルがそぎ落とされた食事になりがちです。特に亜鉛は「セックスミネラル」とも呼ばれ細胞分裂に必須の栄養素ですが、加工食品に含まれる添加物(ポリリン酸など)によって吸収が阻害されやすく、知らず知らずのうちに深刻な亜鉛不足に陥っているケースが後を絶ちません。亜鉛が不足すると、食べたタンパク質を髪に変えることができず、毛根は新しい髪を作ることができなくなります。さらに悪いことに、糖質や脂質の摂りすぎは皮脂の過剰分泌を招き、頭皮環境を悪化させます。高脂肪食は血液中の悪玉コレステロールを増やし、血液をドロドロにして頭皮の毛細血管を詰まらせる原因になりますし、糖質の摂りすぎは「糖化」と呼ばれる現象を引き起こし、頭皮のコラーゲンを硬く変質させて毛根の居場所を奪ってしまいます。また、過度なダイエットも薄毛の大きな原因です。短期間で体重を落とそうとして極端な食事制限を行うと、体は生命維持に不可欠な脳や心臓などの臓器へ優先的に栄養を送り、命に関わらない髪の毛への栄養供給を真っ先にカットしてしまいます。ダイエットを始めて数ヶ月後に抜け毛が急増するのは、体が飢餓状態を察知し、髪を切り捨てて生き延びようとする防御反応なのです。髪は「血余(けつよ)」という言葉がある通り、栄養が十分に満ち足りた後に初めて作られる余剰の産物です。毎日の食事が髪の材料となり、髪の運命を決めているという意識を持たなければ、どんな育毛剤も無意味に終わってしまいます。卵、大豆、牡蠣、レバー、緑黄色野菜など、自然の恵みをバランスよく摂ることこそが、遠回りのようでいて最も確実な薄毛対策です。ジャンクフードを食べるたびに、自分の髪を自分で殺しているかもしれないという恐怖感を持ち、口に入れるものを選び取る賢さを持つことが、現代人が薄毛から身を守るために必要なリテラシーと言えるでしょう。
毎日の食事が髪を殺しているかもしれない栄養不足の恐怖