今回は、女性の薄毛治療を専門とする皮膚科医に、遺伝と薄毛の関係、そして最新の治療法についてお話を伺いました。先生によると、女性の薄毛の相談に来られる方の中には、「母も薄毛なので、遺伝だから仕方がない」と諦めかけている方が非常に多いと言います。しかし、先生は「遺伝はあくまでリスク因子の一つであり、決定因子ではありません」と強調します。女性の薄毛に関連する遺伝子は、男性のAGAほど特定されていませんが、男性ホルモンへの感受性や、女性ホルモンを生成する酵素(アロマターゼ)の働きなど、複数の遺伝子が複雑に関与していると考えられています。クリニックでの診断では、まずマイクロスコープで頭皮の状態を観察し、毛髪の密度や太さにばらつきがないか、びまん性の菲薄化(ひはくか)が起きていないかを確認します。そして詳細な問診で、家族歴だけでなく、生活習慣や既往歴、出産経験などを丁寧に聞き取ることで、遺伝的要因と後天的要因のどちらが強く影響しているかを総合的に判断します。遺伝的素因が強いと判断された場合でも、有効な治療法は存在します。その代表格が「ミノキシジル」の外用薬です。ミノキシジルは、もともと高血圧の治療薬として開発されましたが、副作用として多毛が見られたことから発毛剤として転用された経緯があります。頭皮の血行を促進し、毛母細胞に直接働きかけることで、発毛を促し、髪の成長期を延長させる効果が科学的に認められています。日本皮膚科学会のガイドラインでも、女性の薄毛治療において最も推奨度が高い治療法とされています。先生は、「大切なのは、正しい情報に基づいて、早期に行動を起こすことです。遺伝だからと諦めて何もしなければ、症状はゆっくりと進行してしまいます。しかし、適切な治療とセルフケアを組み合わせることで、現状を維持したり、改善したりすることは十分に可能です」と語ります。遺伝という事実を受け入れつつも、前向きにできることに取り組む姿勢が、何よりも大切なのです。