私が、AGA専門クリニックの扉を叩き、フィナステリドの服用を開始したのは、ちょうど一年前の、桜が咲き始めた季節でした。当時35歳。M字型に後退していく生え際は、もはや前髪で隠しきれるレベルではなく、私の自信を、根こそぎ奪い去っていました。医師から処方された、小さな錠剤。「本当に、こんなもので、髪が生えてくるのだろうか」。半信半疑のまま、私の、人生を賭けた挑戦が始まりました。最初の試練は、治療開始後1ヶ月で訪れました。医師から予告されていた「初期脱毛」です。シャンプーをするたびに、指に絡みつく、おびただしい量の髪の毛。それは、これまで経験したことのない量でした。「悪化しているじゃないか!」。私はパニックになり、何度も、服用をやめてしまおうと思いました。しかし、「これは、効いている証拠です」という、医師の言葉だけを信じ、涙をこらえながら、薬を飲み続けました。その嵐が、ようやく過ぎ去ったのは、治療開始から3ヶ月が経った頃でした。抜け毛の量が、明らかに減ってきたのです。そして、ある日、洗面台の鏡で、生え際をまじまじと見ていると、そこに、黒い点々のような、短い産毛が生えているのを発見しました。私は、思わず「おお…」と、声にならない声を漏らしました。それは、暗闇の中に差し込んだ、ほんの小さな、しかし、確かな希望の光でした。それから、半年が経つ頃には、その産毛は、徐々に力強さを増し、密度も濃くなってきました。そして、治療開始から、ちょうど一年が経った、今日。私は、一年前に撮影した、自分の頭部の写真と、今の自分を、見比べてみました。そこに映っていたのは、劇的、とまでは言えないかもしれません。しかし、明らかに、M字の切れ込みが浅くなり、生え際のラインが、以前よりも前に出ている、自分の姿でした。失われた領土を、少しだけ、取り戻すことができた。この一年間、不安と戦いながら、毎日、欠かさず薬を飲み続けた、自分自身を、少しだけ、褒めてあげたい。そう、心から思いました。
私のフィナステリド治療、涙の1年間